タイトル-経営さぷりメント



創業支援における
ビジネス・インキュベーション



(財)あきた企業活性化センター インキュベーション・マネジャー 越後屋 秀一
《はじめに》
 秋田県庁第二庁舎の3階に「創業支援室」と「創業準備支援室」があります。
 これは、平成12年4月、秋田県庁第二庁舎の完成と同時に、新規創業、新分野への進出などを目指すベンチャー企業の後押しをするため、個室タイプの「創業支援室」6室を設置したのが始まりです。その後、平成18年9月に、起業を考えている方が入居する「創業準備支援室」8ブースが追加となり、「創業支援室」10室と合わせて合計18室・ブースとなっております。
 当初は、入居者からの相談対応が主たる支援でしたが、平成15年度よりインキュベーション・マネジャー(以下IM)が配置され、本格的なビジネス・インキュベーション(以下BI)として入居者支援をする「創業支援活動」が開始されました。(IMの業務内容は後述しますが、小職の場合入居者だけでなく、秋田県内の創業希望者、創業間もない方への支援も重要な役目です)

《インキュベーションとIM》
 インキュベーションとは、もともとは卵を孵化することと訳されますが、ビジネスの卵を育成・支援し、新しい事業や価値を生み出すことを言います。
 また、支援者であるIMの使命は、起業者の持ち合わせていない、経営に関する知識の補完、不足する経営資源についての道筋をつけることにあります。
 起業者が開始する営利事業の創成を育成し、豊かな暮らしに向けて、その活動のきっかけを引き出したり、その質を高めるなど、初期投資した資源(低廉な施設使用料、IM支援などへの税金の投入)について、最終成果として投資以上の創出資源(納税額)という価値の創造・富の創出を図ることへの関与がIMに望まれます。
 入居企業(入居以外の創業者全般も含む)からのご相談は、創業したが計画通りに売れないことによる販路開拓相談や資金相談などが多くあります。
 特に、資金の確保は大切な要素であり、創業志望者へのアドバイスとして「資金の確保」を取り上げております。物が売れてくればお金も入ってきますが、最初のうちは自分の思っていた1/10も売れないことを想定していただいております。資金的に詰まってくると、いつも頭の中はお金をどうしようとそのことだけしか考えられなくなり、事業どころではなくなります。また、当初の事業計画を変更すると、銀行での融資はなかなか受けにくいというのが現状です。ここをクリアしていくために、開業前の段階で余裕資金を予備費としてストックしておく事が必要です。
 このように、支援内容は一律ではなく、支援対象者に必要と思われるあらゆることを考え、その判断はIMの重要な役割です。
 IMには、起業者を経営者に育成することと、通り一遍の事務的関与ではない、献身的な長い間の支援をすることが必要です。

《創業動機について》
 創業志望者に、「動機」は何ですか?と聞いても真の意味での「動機」が出てこないことが多くあります。頭の中にあっても、いざ口に出してください、書いてくださいと言うと、どうもはっきりしません。
 そこで、いま一度なぜ独立したいのかを自問自答していただき、出た結論が「動機」です。
 「動機」がしっかりしたものであれば「独立を決断する勇気」「準備するパワー」、それから「そのあとの日々の自信」というものが自然に湧いてくるはずです。言い換えれば動機そのものが信念につながっていき、そこまで高められれば、いよいよ創業に向かう段階ととらえられます。

《創業計画の3要素》
@何をするのか決める
 自分に何が出来るのか、どんな分野でどの様な能力があるのか、その能力(事業に必要なプロとしての能力)をどのようにしていつまで磨くのか、どの時点で起業するのかという目標の設定が大切です。
 そして、これがしたい!と決まれば、その夢を膨らませます。
 たとえば、お店を始めるのであれば、お店のレイアウトを描いてみると自分自身の頭の中でのイメージが高まり、関心が強まってきます。

A経営資源(人、物、金)の計画を立てる
 考えている事業はどのような販売方式か、卸・小売か、インターネットショッピングの様な形式か、誰を相手に商売をするのかなどを考えると、必要なスタッフ数やターゲット顧客がわかり、これが経営資源の中の「人」。また、事業を行うにあたって必要なものを1つ1つリストアップしていくと経営資源の中の「物」、それに大体の金額を入れてみると設備にかかる総資金が決まり、これに人件費等経費を足したものが経営資源の中の「金」であり、資金計画が生まれます。

B売るための計画を立てる
 事業開始に必要な資金計画を立てたら、黒字にするためにはどれ位売らないといけないのかの収支計画を算定しますが、これだけ売らないと赤字になる、これ以上売れば儲けることができるという損益分岐計画を立てていただきます。

 以上のような事を全部まとめ上げたものが事業計画書です。

《その他のアドバイス》
@ご家族の理解
 配偶者・お子様・ご両親など、ご家族の全面的な応援やお手伝い等が無ければ、逆にご家族のうちの一人でも反対する方がいたり、内緒で進めて後々分かられた場合などは家族関係が非常に気まずくなったり、家族問題に発展したりで、創業云々どころではなくなります。
 ご家族の理解と全面協力を得られないと、起業・開業など出来るものではありません。

Aネバーギブアップ
 最後はネバーギブアップ、諦めないことです。
 くじけそうになった時には、最初に考えた「動機」を思い起こし、信念を持って、夢の実現に向かって頑張るぞという気持ちが非常に大切になってきます。

《これからの当センターBI》
 BIのゴール(卒業)は、支援対象者が目的を達成したときに完了しますが、自立して生計を確保できるレベルから優良企業として地元に定着させるまでなど様々です。
 現在、当センターの入居企業の中には、全国でも珍しい事業を行っている企業や、大きく羽ばたく要素のある企業があります。
 創業相談に来られる方々との面談では、会社作りへの初歩的ノウハウの欠如と、心構え等メンタル面で安易な考えの方が多く見受けられ、そういった方々に対応するため事業経営の基礎の勉強と精緻な事業計画作成のための施設として前述の「創業準備支援室」(プレ・インキュベーション)があります。
 これにより、プレ・インキュベーション(原則入居期間6ヶ月)からメイン・インキュベーション(入居期間3年)という図式が出来上がり、一連の創業支援体制が構築されました。
 平成19年9月には「創業準備支援室」卒業者2名が、「創業支援室」に昇格・入居し、大いにその飛躍が期待されております。
 そのほかに、秋田県ではインターネットでの創業希望者や創業間もない方々のための相談サイト「あきた起業家道場」を立ち上げており、この道場の「創業請負人」として小職が相談に対応しております。
 今後もIMとして、創業者の事業の成長と成功に向けてのソフト支援をし、雇用の創出と、税金の納付という形での地域還元に寄与する企業、ひいては世界に向けた企業の輩出のお手伝いをしたいと思っております。

財団法人あきた企業活性化センター
インキュベーション・マネジャー 越後屋秀一
平成15年4月
財団法人あきた産業振興機構
 インキュベーション・マネジャー
   〃
財団法人日本立地センター
 インキュベーション・マネジャー養成研修修了
平成16年7月財団法人日本立地センター
 IMインストラクター養成研修修了
平成17年10月日本新事業支援機関協議会(JANBO)認定
 インキュベーション・マネジャー
平成19年10月
日本新事業支援機関協議会(JANBO)認定
 Seniorインキュベーション・マネジャー

(2008年4月 vol.321)