工房こすもすと裂き織
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工房こすもすの職員
裂き織をはじめとする作業に利用者と共に取り組んでいる |
諸橋さんは養護学校の職員としての経験から、心身障害者が学校を卒業した後の労働・訓練の場を作れないかと考え、平成9年4月、「工房こすもす」を開所した。心身障害者の特長として、仕事を覚えると一心に取り組み、確実に作業を行うことができるのだが、仕事に慣れても職場環境に馴染めなかったりなどで、継続的な就労が難しい実態があるという。「みんなの能力を存分に発揮してもらう場を作りたかった」と諸橋さんは言う。現在、作業所には、8名の利用者と5名の職員がおり、それぞれに合わせた役割分担のもと、月曜から金曜の午前9時半から午後3時まで作業を行っている。また、一般の方に織りを広めようと、月曜日に織り物教室を開設している。
工房こすもすの作業の主軸である裂き織は、古い着物を細く裂いたものを横糸として、絹や木綿の縦糸に通して作る織物で、青森県などの農家で、当時は貴重な生地の再利用法として作業着などを作るために古くから営まれてきた家仕事だ。通所者は思い思いに糸と着物生地を組み合わせて織物を仕上げる。美しく均一に整った織り目と、二つと無い色合わせがこすもすの裂き織の売りだ。
いいものはいい
「作り始めて間もないころ、販売を受けてくれたお店の方に、『障害者が作っているからではなく、可愛いから、綺麗だから売るんです』と言っていただいたことが礎になっている」と諸橋さんは振り返る。そうして気に入ってくれる人が増え始め、今では、県内各地、県外では横浜、神戸などのブティックで取り扱われるほか、記念品としての注文も受けるようになったそうだ。「多くはありませんが販売の利益を利用者に分配できています。あの子たちも買う人がいるということが励みとなり、一層充実感を持って作業できるようになりました。」
裂き織を利用者の訓練として活用する一方、商品としてもっと多くの人に魅力を伝えることができたら、という工房の運営委員である諸橋さん、石垣さん、佐々木さんの思いを、諸橋さんの弟である中村進さんも手伝って、平成19年9月、裂き織の販売を担う株式会社あとりえ織里を設立するに至った。
あとりえ織里
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利用者の個性が反映された裂き織はどれも丁寧な仕上がり |
あとりえ織里では、裂き織で新たによみがえった織り生地に、高いデザイン性を加えて付加価値の高い製品をつくることを目指している。織り教室の熟練者と工房利用者の織る生地は、横糸にも絹糸を繊細に組み入れた、あとりえ織里オリジナルのもの。そういった美しい生地を、県内外のデザイナーや仕立て屋に委託し、コートやジャケット、ブラウスなどに仕立てている。現在は、販路開拓に力を入れ、商品としての可能性を探っている最中だが、ブランドとして確立させることが目標。
「気に入ってファンになってくださる方に、良いものを提供したい。秋田だけではなく、全国の方に私たちの裂き織の魅力を知っていただきたい。そして、その利益が障害者の安定した就労や生活にも繋がるように・・・そんな循環を実現させたい」と諸橋さんは話す。あとりえ織里では、ホームページを開設し、インターネット販売を開始した。世界中の人の目に、裂き織が映る。あとりえ織里と工房こすもすが、縦糸と横糸がしっかりと織り広げられるように交わりあって、諸橋さんの夢を形にしていく。
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繊細な織り目の熟練者の作品
諸橋さんが着ているスーツもこうした反物を仕立てたもの |
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