特集

中小企業白書200年版概要

第1部 2007年度における中小企業の動向

第1節 2007年度の我が国経済の動向

 2007年度の我が国経済は、緩やかな景気回復を続けたものの、年度末に足踏み状態となった。サブプライム住宅ローン問題、原油価格高騰、改正建築基準法の施行後の建築着工件数の減少という3つの外生的ショックが発生した。原油価格高騰と建築着工件数の減少は中小企業の業況や建築関連の産業に悪影響を与え、サブプライム住宅ローン問題の発生と相俟って、我が国経済の先行き不透明感を増大させている。


第2節 中小企業の景気動向

 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」によれば、中小企業の業況判断DIは、2002年第1四半期を底に、製造業が主導する形で改善を続けてきたが、2007年になって弱い動きが続いている。
 利益率については、中小企業の業況の悪化等を背景として、設備投資対キャッシュフロー比の低下、中小企業の生産・営業用設備投資DIにおける過剰感の増大等が見られた。
 資金繰りの動向については、原油価格の高騰の影響等を背景とした中小企業の業況の悪化のため、資金繰りの弱含みが見られた。
 雇用については、2007年後半から、有効求人倍率は若干の低下傾向を示し、失業率の低下も足踏み状態となっており、雇用情勢は厳しさが残る中で改善に足踏みが見られる。


第3節 我が国経済の構造変化に直面する中小企業

 中小企業の利益率の低迷の背景には、原油価格高騰や改正建築基準法の施行後の建築着工件数の減少などの外生的ショックに加えて、中小企業が大きく依存する民間消費需要の伸び悩みがあると考えられる。消費に力強さがない背景には、家計部門の雇用者所得が伸び悩んでいることがある。その背景としては、〔1〕景気回復局面において失業率が改善したものの、歴史的に見ればなお高い水準にあり、労働市場での賃金上昇圧力が弱いこと、〔2〕正規雇用から非正規雇用への人員シフトが生じ、賃金の押し下げ要因として働いていること等の要因が考えられる。
 また、経済のグローバル化に伴う海外製品との競合、公共事業の減少などの構造変化が、業況に影響していると考えられる。


第2部 中小企業の生産性の向上に向けて

第1章 中小企業を巡る構造変化と生産性

 中小企業が新たな付加価値の創出等に取り組むことにより生産性を向上させることは、我が国経済の持続的な成長の実現に資するだけでなく、個々の中小企業が業況を改善させ、持続的発展を図るためにも必要である。中小企業が少子高齢化・人口減少をネガティブに捉えている背景には、総人口の減少が家計部門の消費支出額を減少させ、国内市場を縮小させる原因になるという懸念、総人口の減少が労働者数の減少をもたらし、労働投入の成果物であるGDPを減少させる原因になるという懸念がある。国民のうち就業している者の割合を増加させることにより、労働投入量の維持を図ること、労働投入量当たりの付加価値額を伸ばすことが対応策として考えられる。
 労働生産性は、産出量を付加価値額とした場合、一般に次のように定義される。

 
 労働生産性の水準が高い中小企業に共通して見られる取組として、ITの活用、輸出による海外市場の開拓、研究開発等を通じた製品・サービスの差別化、外部の経営資源の活用等が見られる。
 中小企業がグローバル化、IT化といった構造変化に機動的に対応しながら、製品・サービスの開発など新たな付加価値の創出に果敢に挑戦していくことが、中小企業の業績を改善させるだけではなく、労働生産性の向上を通じた我が国経済の持続的な成長のために求められている。


第2章 経済のサービス化と中小サービス産業

 我が国の経済発展には、中小サービス産業の生産性向上が重要である。IT化の進展などに伴って、顧客もサービスの品質や価値に関する情報を入手しやすい環境が整備されつつあり、サービスの事前の選別や国際的な電子商取引によるサービスの輸入も可能となるなど、中小サービス産業の経営環境は大きく変化しつつあり、競争も一層激化すると思われる。
 こうした中で、中小サービス産業が生産性を向上させ、我が国の経済成長のエンジンとなっていくためには次のような取組が求められる。

●サービスの付加価値の向上という視点から、安定した品質のサービスを提供することや、顧客が期待する高い価値のあるサービスを提供するこ
 とで顧客の評価を高め、他社との差別化を図っていくこと
●取引環境の課題という視点から、サービスの品質や価値に関する情報を顧客に対して十分に提供するなどにより、顧客の理解を深め、品質や
 価値を価格へ適切に反映できるよう取り組むこと
●自社の提供するサービスの内容やその特性を勘案した上で、業務の標準化を進め、業務プロセスの見直しやITを活用した効率化に取り組むこと
●人材の意欲や能力を高めるための具体的な取組を長期的な視点に立って実施し、高い付加価値を生み出す人材を育成していくこと

第3章 中小企業によるITの活用

 ITの革新と普及が急速に進む中、大企業に比べて中小企業ではソフトウェアを中心にIT資産の蓄積が進んでいない。単に省力化を図るだけにとどまらず、中小企業はITを有効に活用して組織内で情報の共有を行い、その情報を戦略的に活用して売上や付加価値を増大させていくことが期待される。
 ITの活用は目的ではなく手段である。中小企業は、自らの経営目標を明確に定め、その目標を達成するために情報の収集・蓄積・分析・発信等を行うツールとしてのITを戦略的に活用していくことが期待される。



第4章 中小企業のグローバル化への対応

 中小企業が輸出や海外展開に取り組むことが中小企業の労働生産性の向上に寄与している。
 我が国中小企業がパートナー企業の確保や品質管理等様々な課題の克服に挑戦し、急速に拡大しているグローバルなサプライチェーンにおいて、独自のアイディアと技術力に裏打ちされた高い付加価値を実現していくとともに、中国やインドといった巨大で急速に成長するマーケットの獲得に努力していくことは、中小企業の生産性向上を図るために極めて重要である。今後とも、中小企業のグローバル化への対応に対して政策的な支援を適切に講ずるとともに、中小企業がその独創性や機動性をいかんなく発揮し、海外マーケットという新たなフロンティアを果敢に開拓していくことが期待される。

第3部 地域経済と中小企業の活性化

第1章 地域を支える中小企業の事業再生と小規模企業の活性化

 中小企業における最近の開業・廃業の動向として、開業率が上昇したことにより、開業率と廃業率の差が縮まっており、特に、情報通信業や医療、福祉といった業種での動きが活発であること、都道府県別に見た場合、開業が活発な県とそうでない県が存在しており、開業率・廃業率の水準は地域の人口動向や倒産動向等と何らかの相関関係を有すること、さらに、同一県内であっても、県庁所在市か否かで、開業率・廃業率に大きな差が生じていること等が特徴となっている。
 地域の経済における中小企業の存在は大きく、その形態は多種多様である。これらの中小企業が活発に参入し、その潜在能力を存分に発揮して事業を展開でき、必要に応じて事業の再生を円滑に行うことを可能にすることにより、小規模企業を含めた中小企業の活力を引き出すことで、地域経済の活性化に繋がると考えられる。


第2章 地域における中小企業金融の機能強化

 地域金融の円滑化を図るためには、地域金融機関の努力に加え、中小企業が決算書のみならず事業計画等の企業情報を地域金融機関に対して積極的に開示するなど、コーポレートガバナンス構築への取組が重要である。
 地域経済の活性化のためには、地域の中小企業が活発に事業活動を展開していくために必要な資金を円滑に調達できる環境を整備することが不可欠である。地域金融機関と中小企業がそれぞれの課題に取り組み、地域における中小企業金融の機能を一層強化していくことが期待される。


第3章 新たな連携やネットワークの形成に取り組む中小企業

 企業間連携では、従来の下請取引に見られる縦のつながりから、より緩やかな横のつながりへとシフトしている。また、異業種企業との連携が進んでおり、お互いの「強み」を持ち寄って、新たな付加価値の源泉を見出す取組が進んできている。
 中小企業の産学官連携も活発に行われてきており、特にTLOや地域共同センターなど総括的な窓口のある大学で積極的な取組が見られる。
 農林水産資源を活用した連携(農商工連携)では、原材料の確保や、消費者の安全志向の高まりもあり、農業との連携が重要となっている。
 中心市街地の活性化では、商店街が地域のニーズに応えた多様な機能を提供すべくコミュニティビジネス等と連携していくことが期待される。
 グローバル化やIT化、少子高齢化等の社会経済構造の変化に伴って生じる新たなニーズに対応し、新たな付加価値を創造していくべく地域の多様な主体を繋ぐネットワークを再構築していくことが必要と考えられる。地域の中小企業、大学等の研究機関、コミュニティビジネス、地域住民等の様々な主体が有機的に連携し、地域経済の新たな成長のエンジンを作り出せるかどうかが地域経済の再生の鍵を握っているといえよう。

 

 『中小企業白書2008年版』は、中小企業庁のホームページで全文をご覧いただけます。
 http://www.chusho.meti.go.jp
 ●『中小企業白書』についてのお問い合わせ先
  中小企業庁事業環境部調査室 TEL.03-3501-1764
 

(2008年6月 vol.323)
 
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