経営さぷりメント
コンプレッサー・ボイラーの省エ

成田 広樹
●中小企業診断士
(高井会計事務所)

 

 1. 新法の成立

 平成20年5月9日「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、事業承継円滑化法という)が成立しました。
この法律の骨子は、以下の3点にあります。

1.相続税課税上の措置
 平成21年の通常国会において関連税法の一部改正を行ったうえで、平成20年10月1日にさかのぼって、中小企業法上の中小企業であれば、相続税について、相続財産のうち自社株式においては一定の要件のもと、評価額の80%について納税が猶予されることになりました。
 一定の要件とは、次のとおりです。
(1)被相続人について
 a 会社の代表者であったこと
 b 被相続人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ同族内で筆頭株主であること
(2)株式を相続する相続人について
 a 当該相続人が会社の代表者であること
 b 相続人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ同族内で筆頭株主であること
 c 相続時より5年間事業を継続すること
   具体的には、 ・代表者であること
         ・雇用の8割以上を維持すること
         ・対象株式を継続保有すること
         ・経済産業大臣のチェックをうけること

2.民法上の特例
 民法の特例として、一定の要件を満たす承継者が全ての遺留分権利者と合意し、所定の手続きを経ることにより、以下の適用を受けることができるようになりました。
(1)生前贈与株式を遺留分減殺請求の対象から除外すること
(2)生前贈与株式の評価額を予め固定すること

※遺留分とは、民法が一定の相続人に対して保証している相続財産の一定割合をいい、遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害されたものが、贈与または遺贈を受けたものに対し、相続財産に属する不動産や金銭等の返還を請求することをいう。


3.金融支援
 事業承継時において、株式、事業用資産の取得、代替わりによる一時的な業績不振、相続税の納税資金等の資金需要に対して、資金調達を支援するための措置がとられました。

4.影響
 手続き上または運用上の詳細については、まだ明らかになっていない部分が多く、適用を受けた場合には、事業後継者とその他の相続人との間で処遇に大きな較差がつくことになる可能性があり、相続人間の争いが激化するおそれがあること、また、事業継続の要件についてもその間に事業不振により人員整理を行わなければならなくなった場合等適用には、慎重を期さなければならない点があります。
 しかしながら、この法律により、後継者が事業承継時に負担しなければならない金銭上その他の負担が大きく減少することは間違い無く、事業承継における大きな障害が除かれることが期待されます。

 2. 近時の動向

 事業承継円滑法により、後継者に対する、株式の移転は容易になりましたが、事業承継における最大の問題点である「後継者不足」は解決されません。
 中小企業庁で出している事業承継ガイドラインでは、その方法について次の3つの類型に分けています。

(1)親族内承継
(2)親族外承継
(3)事業売却(M&A)

 2003年の(株)東京商工リサーチの調べでは、調査時点から20年以上前には、親族内承継が90%以上をしめていたものが、4年前以降では、これが約60%に低下し、親族外承継と事業売却が40%に達しています。
 また、平成20年7月16日の日本経済新聞に、中小企業基盤整備機構が3月にまとめた調査結果が載っています。これによると8割の中小企業経営者が事業承継を望んでおり、大半に配偶者、子供がいるが、後継者が決まっているのは15.8%。これから決める企業のうち親族内で承継を希望するのは、10%とのことであります。
 事業承継のパターンが多様化していることが伺え、必ずしも後継者が親族でなければならないという固定観念は崩れかけているようです。

 3. 事業を承継するということとは?

 そもそも事業承継には2つの側面があります。第1は、会社の株式という財産の問題、第2は会社の経営者という地位の承継の問題である。
 第1の問題は、私有財産の処分という、全く個人的な問題であり、被相続人または遺族間で解決すべきものであり、通常第三者がこれに利害関係をもって関与することは、許されません。
 しかしながら、第2の問題は、会社経営の根幹に関することであり、その他の株主、従業員、取引先、金融機関その他のステークホルダー(利害関係者)に影響を及ぼすものであり、たとえ、中小企業とはいえ、これらを全く無視することは許されません。
 経営権を委譲し、承継することとは、これらのステークホルダーに対する責任を委譲・承継することなのです。後継者にとって、従業員の雇用を保証し、仕入先に対する支払いや金融機関への返済を滞りなく行うことは、かなりの重責です。
 経営者は、承継者がこの責務を全うすることができる適性と能力を備えていることを見極めて選任しなければなりません。「社長の最も重要な仕事は、次の社長を育てること」といわれることがあります。また、「企業の問題のうち、80%が経営者の問題」といわれることもあります。企業が長らく継続していくためには、優れた後継者にバトンを引き継ぐことが最も重要なことと考えます。
 そのためには、早いうちから後継者候補を選抜し、計画的に経営者としての教育を施し、経営者として必要な経験を積ませることが必要です。
 しかし、それ以前に必要なことがあるのではないかと私は考えます。良い業績をあげ、順調に成長を続け、安定した財務基盤を保ち、従業員には手厚い処遇を与える、そんな企業には、優れた人材が自然と集まってくるのではないでしょうか、子供や親族だってそんな良い会社なら跡をついで頑張ってみよう思うのではないでしょうか。誰だって万年赤字で資金繰りに追われるような会社の経営なんかしたいとは思いません。経営者だってそんな苦労を身内にさせたいとは思わないでしょう。
 最も肝心なことは、こんな会社だったら跡をついで経営してみたいと思わせるように日々の会社経営を行っていくことではないでしょうか。こんなことをいうと、「なにを言うか若輩者が、それが一番難しんだ。」と怒られそうですが。


(2008年8月 vol.325)
 
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