特集

観光産業の可能性

1.  日本の観光産業の現状

 国土交通省の「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」及び総務省の「旅行・観光消費動向調査」によると、平成18年度中に日本国内に支払われた旅行消費額は23.5兆円と推計される。訪日外国人旅行消費額1.4兆円を除き、海外に支払われた旅行消費額4.4兆円と合わせると、国民の旅行消費額は26.6兆円と推計される。(10億円未満四捨五入)
 国民の国内観光旅行の動向に目を向けると、平成18年度における国民1人当たりの国内宿泊観光旅行は1.73回、宿泊数は2.77回(泊)と推計され、ここ数年横ばい状態となっている。

市場別にみる平成18年度(2006年度)の旅行消費額

 国の施策に目を向けると、観光を21世紀の重要な政策の柱に位置づける「観光立国推進基本法」が、平成18年12月13日に成立、平成19年1月1日より施行されている。この法律の目的には、国民経済の発展、国民生活の安定向上及び国際相互理解の増進に寄与すること、と規定され、(1)地域における創意工夫を生かした主体的な取組による「住んでよし、訪れてよしの国づくり」が重要であること、(2)国民の観光旅行の促進が図られなければならないこと、(3)国際的視点に立たなければならないこと、(4)行政・住民・事業者らの相互の連携の確保が必要であること、が基本理念に掲げられている。観光立国の実現は、地域経済の活性化、雇用の機会の増大、国民の健康の増進、潤いのある豊かな生活環境の創造、国際相互理解の増進等の意義を有するものなのだ。
 また、観光立国の実現に関するマスタープランとなる「観光立国推進基本計画」が平成19年6月に策定され、5年の計画期間において目指す、観光客数の数値目標などが設定されている。今後、「観光立国推進基本法」「観光立国推進基本計画」の施策のもと、官民一体となって観光産業の活性化に取り組んでいくことになる。

「観光立国推進基本計画」計画期間における基本的な目標

2.  波及効果の大きい観光産業

 観光消費がどれほど国内の産業に影響を及ぼしているのかを見てみる。観光消費は観光関連産業への直接的な経済効果をもたらすだけでなく、観光関連産業の雇用者による家計消費の刺激により国内の幅広い産業へ生産波及効果をもたらすということが分かる。

旅行消費が我が国にもたらす経済波及効果

 平成22年までに、(1)訪日外国人旅行者数の1,000万人達成、(2)退職後の団塊世代の観光需要の拡大、(3)働く現役世代の有給休暇取得率の向上が達成される前提で行った国の推計では、平成22年度の国内観光消費額は29.66兆円になる。

 

 

 

 観光振興をより強力に推進するため、国は、国土交通省内の観光関連の部門を独立させ、省内に「観光庁」を新設することを決定した。平成20年10月に設置が予定され、地方運輸局等現場に近い充実した地方組織を活用して観光振興の施策を的確に推進する等の展望が公表されている。
 今後、観光庁と、県、市町村、観光連盟等関係団体、観光事業者、農林水産事業者、地域住民が連携し、一体となって観光地の魅力アップを図っていくことが期待される。

3.  秋田の観光産業の現状

 秋田県の観光産業の現状を客数で見てみよう。平成19年の秋田県の観光客数は45,151千人で、過去最高の入込客数を記録した前年と比較すると、801千人、1.7%の減少となっている。
 分類別に見ると、「自然公園等」3割、「行祭事」2.5割、「施設」4.5割の構成となっている。「自然公園等」は気候の変動、「施設」は暦の関係により年によって若干の変動がある。「行祭事」は、角館の桜祭りや大曲の花火などの大型イベントが堅調だ。県内・県外客の比率は、約6:4となっていて、近年、首都圏を中心とした誘客活動やマスメディアを使ったPRが効果を上げつつあるが、県外からの観光客数をもっと増やしていきたいところだ。

4.  秋田県の観光振興施策

 秋田県(観光課)は、平成11年に策定した「秋田花まるっ観光振興プラン」を平成17年に改訂し、観光客の心をつかんで離さない本物志向の地域づくりを目指し、地域イメージの創出、観光地としての地域の自立、観光地間のネットワークの拡充、滞在型観光の推進等に取り組んできた。
 平成20年度は、「地域の個性ともてなしの心で築く観光産業の振興」というテーマのもと、各種施策を実施している。次に、事業者に関係すると思われるものを3つピックアップする。

■ 観光地バージョンアップ事業補助金
  観光資源を活用した旅行商品の造成に結びつく地域の取組に対する助成
 対象:観光商工団体、観光関連事業者など
 対象経費:観光メニュー開発やモニターツアー、人材育成研修など
 補助額:経費の1/2以内(最高1,000千円)

■ 北東北三県観光立県推進事業
  平成10年に策定した「北東北文化観光振興アクションプラン」を踏まえ、北東北三県観光立県推進協議会を主体に、新しい旅行 商品の開発・提案、二次交通などの条件整備、冬季誘客、北東北地域全体のマーケット戦略等の設定などに取り組む。

■ 秋田の顔宣伝広告事業
  首都圏等の消費者に、秋田県への具体的な旅行イメージを発信するため、「今年の秋田の顔」を様々な媒体・手法を用いて集中 的かつ効果的に情報発信し、観光客の誘客促進を図る。

今年の「秋田の顔」………十和田八幡平黄金歴史街道〜鹿角を往く〜
事業主体:十和田八幡平黄金歴史街道観光キャンペーン実行委員会

黄金歴史街道ツアーバス運行
黄金スイーツ&黄金メニュー開発・販売PR
特産品が当たるプレゼント&スタンプラリー
尾去沢鉱山開山1300年記念イベント

これまでの「秋田の顔」…平成18〜19年度の「秋田の顔」

(1)阿仁・森吉地域
 旅行エージェントによる秋田内陸縦貫鉄道をメニューとした商品造成が大幅に増加。知名度が向上し、エージェントのアプローチが増加、冬季旅行商品の造成実績も前年を大幅に上回った。従来の観光関連者以外からの関心が高まり、地域住民によるネットワーク化が進み、新しい体験メニュー(酪農体験、チーズ作り)が開発された。

(2)秋の宮温泉郷
 冬季の商品造成が増加。温泉郷の祭り「かだる雪まつり」が秋の宮地区全体の祭りに発展するなど、観光意識が地域全体で共有された。マスメディアの露出が増え、知名度が向上し、首都圏からの問い合わせが増加した。

5.  新しい観光ビジネス

 このように、国では目標を掲げ計画を策定し、県では各事業者、観光団体等に向けた支援施策を打ち出している。そこで、こういった取組の中で、地域に発生する新しい観光ビジネスを二つ取り上げてみる。

(1) 地域の観光資源を活用したビジネス
 平成19年に制定された「中小企業地域資源活用促進法」は、産地の技術、農林水産品、観光資源を地域資源として各都道府県ごとに認定し、中小企業によるそれら地域資源を活用した新商品・新サービス開発等の事業活動を、補助金や優遇措置などで支援するものだ。
 秋田県で地域資源として認定されているものは、123件あり、そのうち観光資源は46件。地域の特色ある観光資源を商品化するチャンスと言える。これまでの観光産業振興は、各観光団体を中核とした施策が多かったが、この地域資源認定による支援では個々の事業者単位で観光振興に取り組むことができる仕組みになっていて、細かなシーズに着目した個性ある商品・サービスの開発が可能と考えられる。

(2) ニューツーリズム
 地域からの観光資源の発掘が進められる一方、既存の観光資源を使った今までにない提供方法による新たな旅行分野の開拓が進んでいる。○○ツーリズムと呼ばれる、主に地域密着の滞在型、体験型の観光だ。旅行スタイルが団体見学型から個人体験型へと変化し、個々の旅行者のニーズも多様化している中、特に、地域独自の魅力を生かした体験型・交流型観光へのニーズが高まっている。これらのニーズを把握し、観光客を満足・感動させる観光商品、メニュー作りを実現することで、各事業者が今までにない利益を得ることが考えられる。

参考資料
「観光立国推進基本法」「観光立国推進基本計画」
国土交通省総合政策局観光経済課「平成18年度旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」
秋田県「平成19年秋田県観光統計」「改訂版秋田花まるっ観光振興プラン」

国土交通省観光HP http://www.mlit.go.jp/kanko
秋田県「美の国あきたネット」HP http://www.pref.akita.lg.jp
J-Net21地域資源活用チャンネルHP http://j-net21.smrj.go.jp/expand/shigen

 

(2008年8月 vol.325)
 
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財団法人秋田企業活性化センター