1個10円の饅頭
小さな饅頭をいくらで売るか。常識を破る10円の饅頭が、ここ数年、全国的にブームになっている。秋田県内でこの販売に取り組み成果を上げているのが、長らく酒類販売で秋田の飲食店や一般家庭を支えてきた“酒の英雄”だ。
「○(まる)ごと拾円まんじゅう」と名付けられた小さな饅頭。他の10円饅頭と差別化を図るため、何よりも上質な素材、しかも、秋田ならではの素材を探した結果にたどり着いたのが、秋田が誇る世界遺産、白神山地の天然水と、北海道産の小豆だった。「当社が作るならば、秋田ならではの饅頭でなければ、という強い思いから、皮を練る水に白神山地の天然水を使用したのです。さらに、ギョーザ中毒事件の余波で、安価な中国産小豆の輸入が停止していたこともあり、国内産小豆へ目を向けたところ、饅頭に適し、且つ1個10円を可能にする北海道産小豆を安定的に入手することができることになりました。味と地域性で、他の10円饅頭とは差別化を図り商品化に至り 現在、1日7〜8万個を生産し、平成20年4月18日に秋田まるごと市場に開店した「まるごと本舗」はじめ、酒の英雄各店などで販売し、好評を得ている。
異業種への挑戦に苦労はなかったかという問いに、冨野氏は、「スタッフが素材の研究や製法の習得、生産体制の確立に頑張ってくれたお陰」と答えてくれた。
食品の安全・安心への要求が高まっているなか、衛生管理の徹底など生産現場は気を抜くことはできない。コツコツと勉強し、日々の生産を支えるスタッフが、異業種への挑戦を支えているようだ。
新しいチャレンジで先手必勝
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○(まる)ごと拾円まんじゅう
(10個入105円〜) |
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カスタードまんじゅう
(10個入157円〜) |
実は、冨野氏は、今回の「○(まる)ごと拾円まんじゅう」以外にも、これまで様々な挑戦を続けてきた。主業の酒類販売では、全国チェーン店等との価格競争などを経て秋田の酒類販売業が淘汰されていく中、いち早く、平成5年にディスカウント販売を始め、店頭販売に注力した。この結果、多くの一般客を価格で捉えることができたのだ。
価格で一般客に訴える一方、現在、店頭販売の4倍を売り上げる飲食店などの業者向け販売も重視してきた。迅速で丁寧なご用聞きの形態を採った配達サービス。日本酒の発注獲得と情報交換を狙った、県内の蔵元を回る見学会や新酒の試飲頒布会の開催。ホームページへの飲食店情報の無料掲載。ビールサーバなどの機器の無料貸出。空き瓶の回収。ここ数年は、開店間近の飲食店をサポートし、酒の専門家としてドリンク・フードメニューへのアドバイスも行っている。これら業者向けサービスの数々は、冨野氏が「お客様に喜んでもらいたい」と自ら考え、実践してきたものだ。こういった地道なサービスが顧客からの信頼を育て、飲食店等との息の長い取引に結びついていることが分かる。
同社では、そのほか、酒類の販売で築いた配達ノウハウと既存顧客を最大限に生かし、「日田天領水」の販売と、「小岩井牛乳」宅配サービスも行うなど、精力的な事業展開を続けている。
すべての事業に共通するのは、冨野氏の「お客様が困っていることのお手伝いをしたい」という思いだ。常に時流を読み、経営戦略を練ると同時に、目の前の顧客のニーズを把握し応えていこうとする。これが先手を打つ経営の秘訣だ。
秋田のお客様にお返しを!
様に何らかの形でお返ししていきたいと考えています」。何度も「お客様の喜び」を口にする冨野氏。酒だけでなく、饅頭などの新しい商品に貪欲に取り組む原動力は、顧客の期待と信頼のようだ。
好評を得ている「○(まる)ごと拾円まんじゅう」だが、冨野氏は既に次の段階に移っていた。厳選のカスタードクリームをたっぷり使った「カスタードまんじゅう」と、男鹿の塩を餡に練り込んだ「塩まんじゅう」を新しいメニューに加えるため開発中だ。カスタードは既に一部で販売を始めていて、反応も良好だという。
「これからも秋田の酒、秋田の食を大切にしながら、お客様に喜んでいただく当社でありたい」。地元企業のヒーローとして頑張る英雄の今後に注目したい。
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