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弁護士 江野 栄
秋田弁護士会
第一合同法律事務所

 1.「企業対象暴力」とは何か

 「企業対象暴力」という言葉になじみのない方は少なくないと思います。「企業対象暴力」とは、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ等といった反社会的勢力が、企業をターゲットに資金を獲得するため、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求を行うことをいいます。
 具体例をあげると、

というような行為に及ぶことをいいます。
 平成19年中に全国の警察や暴力追放運動推進センターに企業から寄せられた暴力団関係の相談は実に14,844件にものぼるそうです。暴力団等の反社会的勢力は、あらゆる企業に対し、不当な要求等により資金を獲得しようと虎視眈々とその機会をうかがっているといってよいでしょう。
 したがって、平素から被害に遭わないための備えをしておくべきです。

 2.「企業対象暴力」への対応策

 「企業対象暴力」に対応するには、暴力団等の反社会的勢力の様々な具体的手口を知ることも必要ですが、ある程度パターン化して対応策を考えることも有効です。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会前委員長の金子正志弁護士の分類によると、反社会的勢力による不当要求は、

の3つに分類できます。
 (1)の接近型とは、不当要求者に企業に対する攻撃材料がない場合です。たとえば、飛び込み営業的に機関誌の購読要求や広告料、賛助金、寄付金、みかじめ料、貸付け等の名目で不当な要求を行ってくるようなケースです。この場合の対応策としては、「理由をつけずに断る」ことです。
 (2)の攻撃型とは、不当要求者が何らかの攻撃材料を持ち、要求者本人ないしその代理人と称して、金銭等を要求してくるような場合です。たとえば、事故、トラブル、会社役員の女性関係など不祥事等を理由に因縁をつけてくるようなケースです。この場合の対応策としては、事実関係を確認し、法的責任がなければ断る、法的責任がある場合は法的に相応の責任を負担して適切な改善措置を講じ、過度の責任負担は断る。裏取引はしないことです。
 (3)の癒着型とは、担当者が反社会的勢力と持ちつ持たれつの関係となって、賛助金の要求など不当要求を断れなくなったケースです。この場合の対応策としては、相手方との対応をした担当者を交替したり、代理人として弁護士を依頼して、きっぱりと断って関係を遮断することです。
 (2)の攻撃型、(3)の癒着型の段階に至ってしまった場合は、後に述べますとおり、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部専門機関との連携が必須といえます。

 3.政府指針に則った対応

 政府の犯罪対策閣僚会議では、昨年6月に暴力団等の資金源に打撃を与える対策をより強化するため、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表しています。指針によると、企業が反社会的勢力による被害を防止するためには、次の5つの基本原則を守ることが重要とされており、そのさわりを知っておくだけでも有効ではないかと思われますので、かいつまんでご紹介します。

(1)「組織としての対応」
 得てして担当者は、暴力団等の不当要求により不安感や恐怖感を強く持つあまり、何らかの行動基準がないまま対応すると、要求に応じざるを得ない状況に陥りがちです。そこで、企業においては、平素から、研修活動の実施、対応マニュアルの整備、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部専門機関との連携をもつなど社内体制を整備しておくべきです。また、担当者や担当部署だけに任せずに、代表取締役以下、組織全体として対応することも必要です。

(2)「外部専門機関との連携」
 平素から、外部専門機関である警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等との緊密な連携関係を構築しておく必要があります。
 その第一歩としては、秋田県での暴力追放運動推進センターである暴力団壊滅秋田県民会議(問合せ先 〒010-0922 秋田市旭北栄町1-5秋田県社会福祉会館内 TEL018-824-8989)に連絡をとり、助言を受けながら、社内に暴力団等による不当要求に対し適切に対処するための「不当要求防止責任者」を選任し、秋田県公安委員会に届出を行うとともに、不当要求防止責任者講習(無料)を受講することが必要不可欠です。秋田弁護士会でも暴力団壊滅秋田県民会議に企業対象暴力対策に精通した弁護士を派遣して、随時、無料相談に応じています(問合せ先は暴力団壊滅秋田県民会議まで)。

(3)「取引を含めた一切の関係遮断」
 暴力団等の反社会的勢力とは、合法的な取引関係も含めて一切の関係を持たないことも重要です。もっとも、今では、暴力団だと名乗って近づいてくることは稀であり、いかにもビジネスマン風の企業舎弟を通じて企業に接近してくることが多く、相手方がそのような反社会的勢力かどうかにわかには区別がつかないことが多いといえます。知らない間に反社会的勢力が取引先になって不当要求をされる被害を防止するために、契約書や取引約款に、相手方が暴力団等の反社会的勢力であることが判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を排除することのできる暴力団排除条項を盛り込んでおくことが有効といえます。

(4)「有事における民事と刑事の法的対応」
 反社会的勢力から不当要求がされた場合には、積極的に警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部専門機関に相談をし、あらゆる民事上の法的対抗手段を講じるとともに、必要とあれば刑事事件化を躊躇すべきではありません。

(5)「裏取引や資金提供の禁止」
 反社会的勢力との裏取引や資金提供は、企業の弱みを新たに作ってしまうことであり、その弱みに付け込まれて新たな不当要求を誘発することが必然です。絶対に行ってはなりません。

 最後になりますが、以上の諸点をご参考にされて、暴力団等の反社会的勢力による不当要求のために企業経営がつまずかないよう予防策を講じていただければ幸いです。


(2008年10月 vol.327)

 
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財団法人秋田企業活性化センター