箱根駅伝の総合優勝、おめでとうございます。最後まで目の離せない面白いレースでした。

 どうもありがとうございます。私もワクワクするようなレースでした。

佐藤代行は、横手市平鹿町のご出身ですが、今回の栄冠に辿り着くまで、どのような経歴を歩んできたのでしょうか。

 秋田工業高校で中長距離選手として走り、東洋大学に進学して陸上競技部のマネージャーを務めた後、秋田に帰り、三傳商事株式会社(秋田市)で営業職を務めるかたわら、コーチとして秋田工業高校陸上部を11年間指導しました。
 この経験のお陰で、40歳のとき、母校の東洋大学の監督を頼まれまして、年齢を考えると不安が大きかったんですが、好きなことがやれるということと、「夢がある」ということで転職を決意しました。それから15年間、単身赴任生活を続けているんですよ。監督として8年間務めましたが、川嶋伸次前監督の就任二年目から、コーチとして、主に選手のスカウトをしてきました。

監督からコーチへ、違和感を持たれたと思いますが。

 違和感はありません。というのも、チームの目標が違ってきたからです。私が監督を任された時は、シード権を獲ることが目標でしたが、チームの力が上がってきたここ数年は、入賞そして優勝が目標になっているわけです。目標に挑戦できる監督がその時々で求められ、そしてそういった監督が選任されることが必要だからです。


 
どうやって良い人材を発掘しているのですか?

  現在の大学陸上競技界は、大学間で優秀な選手を激しく取り合うようになっています。私は、こういった奪い合いには入らず、他の大学が声を掛けないような選手をスカウトすることが多いですね。
 記録という成績にこだわらず、直に練習を見に行って選手と話してみます。これはもう感覚なんですが、ピンとくる選手というのがいるんです。今回、5区の山登りで首位を取った柏原竜二は、高校二年の時に見て、「おもしろいな」と感じたんです。今の選手に珍しく、計算せず、好きなように行けるところまで行くような走りをする。「走りたい」というハングリー精神を強く感じ、走れる環境を作ってもっと強くしたいと思いました。
 あとは、東洋大学や監督のカラーに合った選手かどうかも考えますし、反対に少し違ったタイプの選手も揃えるようにしています。みんな一緒じゃ、おもしろい集団にならないでしょう。

そうして集めた選手を、どのようにして強い選手に育てるのですか?

 うちの選手はエリートじゃないので、ハングリー精神があるし、走ることに非常に前向きで純真なんです。走れる環境に対して、大げさですが「感謝」があるのかな。ですから、我慢を強いる繰り返し練習にも懸命についてきてくれる。
  私は、全員を同じテーブルに上げず、それぞれに四年間での目標を聞いて、それぞれの目標、実力、個性に応じた指導をするようにしています。ですから、1年生で登用できる選手もいれば、4年生の最後にならないと登用できない選手もいます。

大会時には、選手を選ぶ苦労もあると思いますが。

 今回の箱根も、二日目の朝4時に6区の選手を変えたんですよ。調子やわずかなタイム差などの状況から8%くらいの不安を感じ、寝ずに悩んだ結果、経験のあるキャプテンの大西から、チーム一冷静な富永に代えたんです。これがハマったからよかった。「これは勝てる」と頭を切り替えて勝負に徹し、いやらしいレースをしましたよ(笑)。レース中はポイントだけを簡単に指示して、あとは選手に任せるようにしています。

選手に信じてついてきてもらう指導者であるためには、なにが大事でしょうか?

 調子にはどうしても波がありますが、選手が悩んでしまったら回復がずっと遅くなってしまうので、大事なのは選手が悩みそうなときにフォローしてあげることだと思います。練習以外にも、合宿所で一緒に食事をしたり、普段のコミュニケーションの中で気が付くことがあります。そのときに声を掛けてやることです。
  選手は、自分のことを見てくれているんだというだけで安心できるんです。長距離走は心理面の影響が大きい競技ですから、指導者、特にコーチは、技術よりも精神面のフォローをすることが大事なんです。

先ほども「感謝」という言葉がありましたが、今回は特にその思いが強かったようですね。

 普段から「感謝」の気持ちを持つように教えていますが、今回は、不祥事のために出場できるかも分かりませんでしたから、5日間の活動自粛中には合宿所で毎晩部員を集めて「どうなっても「感謝」の気持ちを忘れてはいけない」と繰り返しましたね。チームは結束し、結果的に逆境がバネになりました。
 
優勝校の顔として大変忙しい毎日ですが、指導者としての今後は?

 また裏方(コーチ)に戻りたい。監督とコーチってまったく違うものなんです。指導者側がそれぞれの役割に徹することが、組織の力を格段に高めるんです。私は、コーチとして選手の発掘と育成という役割に一層努力して、若い指導者が育つようにサポートしていきたいですね。

 

佐藤 尚(さとう ひさし)
昭和28年4月29日生まれ。秋田県横手市平鹿町出身。東洋大学陸上競技部(長距離部門)監督代行。秋田工業高校では中長距離選手、東洋大学在学時は陸上部マネージャーを務めた。サラリーマン経験後、平成6年から7年半同部の監督を務め、平成16年からはコーチとして選手のスカウトと育成に尽力。平成20年12月より、部員の不祥事により引責辞任した川嶋伸次氏に代わり、監督代行を務め、平成21年1月2日、3日に開催された「第85回東京箱根間往復大学駅伝競走」において同部を67回目の出場にして初の総合優勝(往路・複路ともに優勝)に導く。


文責:編集担当(総務企画グループ)


 

 

(2009年2月 vol.331)

 
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